暮らしの劇伴

少し落ち着いたので、作業場の環境をいろいろ思い切って変えることにした。
愛着のある古いモノで勝負することも またあるだろうが、やはり どんどんと新しいモノを取り入れて、使って、時代の流れに慣れて行くことも必要だと考えた。

大枚払ってメール1通、ダウンロードするための1行のコードとマニュアル。
昔のように楽器屋に行って店頭でお兄さんとアレコレ話して機材を買うということも無くなり、ネットでカートに入れ、決済したら すぐに使える時代だ。
高価なオーケストラ音源などは アクティベートするまで不安でドキドキするが、購入したあとのなんとも言えない味気ない感じにも少し慣れてきた。

 

いくつかのソフトをダウンロードする際に かなり時間があったので、過去に制作した音源やデータなども少し整理していたのだが、ある1曲を聴いていて 思わず手が止まり、何度も何度も繰り返し聴いた。

 

 

 

 

『Home & Life』
2011年に作らせていただいた作品で、住まい方アドバイザーの近藤典子さんとダイワハウスがコラボレートした「ケーススタディハウス」のWebに曲を書いてくれないかと、近藤典子Home&Life研究所の在原社長からオーダーをいただいた。

ケーススタディハウス名古屋.png

 

近藤さんとダイワハウスがコラボしたケーススタディハウスは、2006年5月に広島で最初のモデルハウスが完成し、その後2007年に横浜と神戸、2008年に名古屋が完成した。
その広島・横浜・神戸・名古屋のケーススタディハウスごとにWebサイトがあったのだが、2010年末あたりからサイトのリニューアルが始まり、発注を貰った頃は最後の仕上げをされていたようだった。

東日本大震災から数ヶ月経った頃で、半年以上先まであった仕事が全てキャンセルになり、石巻や女川に長く滞在して、これまでに見たこともないような色んなことを体験している最中で、大きな自然災害の前での音楽の無力さを感じたり、自分自身の これまでやってきたことに疑問を感じたりしていたのだが、目先の仕事も無いオレを気遣って発注してくれた社長の想いに応えようと、震災後まだ整理できていない 散らかった作業場で、ピアノの前に座った。

 

 

鍵盤に触ろうとすると、現地で見た風景が鮮明に蘇り、とてもじゃないが ”暮らし心地よさ”を表現するようなメロディなんて全く浮かんでこない。
毎日 朝から晩まで座ってるだけで2日経ち 3日経ち・・・すぐに数日が過ぎていった。

そんな日々を過ごしているうち、ふと「今のオレに書けるものを書いてみよう」と思った。
少し張りつめていた気持ちが軽くなった気がした。

 

自分の見た、人の一生、
当たり前の生活ができることの尊さ、
人が生きる上での哀しみや喜び、
そして人生という時間、
それらを包むような曲が書きたいと思い、完成した2分の曲を何度も練習し、一発録りした。

http://www.hli.jp/nagoya/

 

 

まだ劇伴など1曲も書いたことが無い頃で、思えば この曲がオレの劇伴第1号と言っても良いかもしれない。
津波で流されたり、大きな穴が開いた 寒々とした家々に、いつか暖かな光が灯るようにと願いながら書いたこの曲を聴いていると、当時の色々な想いが蘇ってくる。
Webのコマーシャル用音楽として発注をいただいたが、人の暮らしに寄り添える曲が書きたいと強く思って書いた・・・今思えば、いろんな人の暮らしに合う”<劇伴>が書きたい”と思ったのかもしれないと思う。

 

良い曲を書こう、
素直にそう思った。