Seeds

年に何度か、ウチのポストには 花の種の入った袋が投函される。
最初のうちは「?」と不思議に思っていたのだが、ある日 斜め向かいに住むオッちゃんが「植えた?」と聞いてきたので そのオッちゃんが入れてくれてると分かり、時期をみてプランターに植えるようにしている。

このオッちゃん、下町の長屋の立ち並ぶ通りを 毎日必ず掃き掃除されている。
夏の暑い時に水を撒いたり、汚れや落ち葉に気づいたときはオレも玄関先を掃除するが、オッちゃんは雨の日以外ほぼ1年を通して、長屋の通りを綺麗に掃除しているのだから頭が下がる。
「物騒な世の中だからね、通りが汚いと悪いことも起きやすいしね」と、30メートルほどの通りを小一時間ほどかけて綺麗にするオッちゃんの箒の音が、いつもリズミカルに鳴っている。

 

さて、世間はGWだったが、その間ずっと作業場に引きこもって作業に没頭していた。
煙草を買いにタバコ屋まで行くか、コンビニに行く以外は、全くと言っていいほど外の空気を吸わず、ただひたすらPCの画面と鍵盤を前にして、なんとか良いフレーズを捻り出してやろうとモガいていた。

6月中旬すぎには おそらくプレス発表があるだろうが、国内でも最先端な技術を使った映像作品の音を作るというミッションをいただき、某アーティストさんが作った原型に 情感と艶を加えて形にしていく作業。
あと2日ほどすれば、レコーディング・スタジオでの作業になる。

そんなプログラムの作業に明け暮れていたGW中、人と会ったり話したりしたのは2人だけ(笑)。
煙草が切れたので買いに行こうと外に出ると、いつもの箒の音。
「この前も 種、入れてくれてましたね。植えましたよ。でも、なんかいつも頂いてばかりで申し訳ないなぁ」
と言うと
「ウチも貰ってくるんだよ。だから気にしなくていいよ」
と。

なんでも、オッちゃんのご家族が墓参りに行くと、毎回お寺で花の種をくれるんだそうだ。
”墓参りにいくと花の種をくれる”、なんて素敵なお寺さんだろうと思う。
そして その貰った種を、通りに建つ十数軒の中から 何故かウチのポストに投函するオッちゃん、なんだか不思議な流れ(笑)。

 
タバコ屋に行けば行ったで、「ノベルティも今からは無くなっていく時勢だし、煙草を買う人が少なくなっちゃってさぁ〜」と嘆くタバコ屋の親父の話を「へぇ〜、そうなんだ」と聞き役に徹して、さぁまた帰ったら頑張ろうと来た道を戻る。

ウチの前の通りでは、出たときと同じように、オッちゃんが 丁寧に通りを掃いている。

 

ここに越してきて もう5年ほどになるが、下町の穏やかな風景に触れながら、日々 あ〜でもない・こ〜でもないと、また音を鳴らしている。

rainbow

 

 

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